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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)1354号 判決

原告 三銀行団債権管理委員会

被告 播本半三

主文

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し金十二万千百十円並にこれに対する昭和二十五年三月三十日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「原告は、訴外関西燃料株式会社に対し現金貸付債権金二千九百九十万円を有するところ、昭和二十七年十一月十二日、同訴外会社の被告に対する売掛債権金十二万千百十円(昭和二十四年五月三十一日以降昭和二十五年三月三十日までの間に、被告に対し売渡した薪炭、加工炭売渡代金)を、民法所定の要件に従い、債権譲渡を受けたので、被告に対しこれが支払を求めているが、被告は原告の請求に応じないから、茲に原告は被告に対し右金員並にこれに対する履行期日以降である昭和二十五年三月三十日以降支払済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ。」と述べ、被告の時効完成の抗弁に対しては、「被告は昭和二十五年十一月から数回に亘り本件買掛債務の支払を確認の上、被告保有の訴外会社株式五百二十枚を会社に買上げて貰い右株金の支払と本件買掛債務の支払とを相互に相殺され度い旨同訴外会社社長小林時雄等に申入れ、同訴外会社は右株式買取の許否を決定するまで売掛債権の支払期日だけは猶予することにした。従つて、本件債権の弁済期は、昭和二十七年三月二十五日株式自己買取否決の役員会議決定と共に始めて到来し、被告は直ちに右通知を受けて時効も此の時より進行したのである。また、原告は昭和二十七年十月二十四日被告に債務支払方督促し、被告は債務承認の上、同年十一月十七日原告側を訪問し、目下手許不如意であるから長期割賦方懇請したのであつて被告の抗弁は全く理由がない。」と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、「原告の訴はこれを却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告三銀行団債権管理委員会は訴外関西燃料株式会社の債権者である大和銀行、大阪銀行、東京銀行の三銀行が、右訴外会社の経営を管理し、債権の取立を行うために設けられた三銀行間における事実上の申合せによる機関であつて、構成員各自から離れた独自の共同目的も、その目的遂行に捧げられた財産も存しない単なる人的結合にすぎず、取引関係において単一なるものとして生活活動を行う継続的存在というを得ないから、原告委員会は法人でも、法人に非ざる社団でもない。ところで、訴訟法上当事者能力を有するのは、自然人、法人及び代表者、管理人の定めのある社団又は財団に限られるから、原告委員会が当事者能力を有しないことは明白であり、よつて本訴は不適法として却下さるべきである。」と述べ、なお本案に対する答弁として、「原告が訴外関西燃料株式会社に対し原告主張の債権を有していたことは不知、同訴外会社が被告に対し約十一万円の未清算の売掛債権を有していることは認めるが、その金額はこれを争う。被告は、昭和二十八年三月二十五日大阪簡易裁判所の支払命令の送達あるまで右商品代金の請求を一度も受けたことはなく、訴外関西燃料株式会社々長小林時雄とは、被告が同社を退職した昭和二十五年七月三十一日以降全然面接した事実がない。従つて仮りに原告に当事者能力ありとするも、本件売掛代金債権は燃料の卸売業者である同訴外会社から燃料の小売商である被告に対する卸販売によつて発生したものであるから民法第百七十三条第一号により履行期より二年を経過した昭和二十七年三月末日に時効完成したものであり、右主張に反する原告の主張事実はすべて否認する。」と述べた。

理由

被告は原告三銀行団債権管理委員会は、訴外関西燃料株式会社に対する債権者である大和銀行、大阪銀行、東京銀行の三銀行間に設けられた債権取立のための事実上の申合機関にすぎないから訴訟法上当事者能力を有しないと主張するので、先づその点について判断をするのに、民訴法上、当事者能力が認められるものは、自燃人、法人、然らざれば代表者又は管理人の定めある法人に非ざる社団又は財団に限られていることが明らかである。このうち実体法上の権利能力者である自然人又は法人が訴訟法上も当事者能力を有することは当然であるが、たとえ法人格をもたぬ社団又は財団であつても、これらはいづれも社会生活上一の独立体として存在する組織体であつて、団体構成員の加入脱退等の移動に関係なく、その構成員各自の目的から離れた団体独自の目的を有し、多くは団体財産に関する規定をも具備して居り、その代表者、管理人の定めのあるときはこれを通じて団体独自の意思を実行する或程度永続的な社会的存在として認め得るから、これらの団体に当事者能力を認めぬときは、たとえば構成員の変動する毎に、当事者の実体には何ら変更なく、訴訟遂行上別段の意義もないのに、徒らに訴訟当事者を変更せねばならなくなり、実際上繁に堪えぬ不便がある。しかしながら構成員各自から離れた独立の目的なく、寧ろその個人的利益によつて、団結しているに過ぎぬような集団にまで、単なる訴訟上の便宜を理由に当事者能力を認めることは、実体関係と訴訟手続関係の分離を避ける意味からも、許されないと解するのが相当である。ところが原告委員会は株式会社大和銀行、同大阪銀行、同東京銀行の三銀行を以て組織された、三銀行の債務者である訴外関西燃料株式会社の経営管理並同社の有する債権取立の実行機関であつて、その構成員である前記三銀行の個人的利益を離れた独立の目的がなく、ただ三銀行各自の債権回収を計る申合せ機関として、三銀行各自の指名する支店長たる実行委員が、三銀行各自の個人的意向を持ち寄り、三銀行の完全な意思の一致を俟つて始めてその意思が、右実行委員によつて選任せられた原告委員会代表者を通じて対外的に遂行され得るものであることが弁論の全趣旨に徴し明らかで、一構成員の脱退は直ちに原告委員会そのものを消滅せしめる関係にあるから、かかる社団性極めて稀薄な集団は民訴法上の法人に非ざる社団とはいい得ないと解するのが相当である。果して然らば、原告委員会は、民訴法上当事者能力を欠くといわねばならないから、爾余の判断をするまでもなく、原告の訴は却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条適用の上主文の通り判決する。

(裁判官 岡村旦)

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